水色書架

自作の一般向け現代小説を書いています。長編短編をご用意しております。
はじめに
次の小説を構想中です。しばしお待ちを…。

TOPページではブログ仕様で、新着記事順ですが、
【作品リスト】から小説タイトルをお選び頂くと、順を追ってお読み頂けます。
1章ごと《続きを読む》から本文全文をお読み下さい。
【作品のご案内】 ← 作品のあらすじ等は、こちらをご参照下さい。
尚、当ブログ作品の無断使用・転載は禁止しております。

作品リスト  [ 『dearマリア』 ]

dearマリア (1)

夏の日差しが街のビル群のガラスに反射して、日陰を歩いても光線にさらされ、額に汗をにじませながら、トオルは目的の喫茶店まで急ぎ足で歩いた。百貨店や有名ブランドショップ、ホテル、有名企業のビルが居並ぶ大通りには、ビジネスマンやOL、ショッピングに来た女性らが行き交っていた。

すれ違う女性たちの何人かは紫外線を避けるためであろう、日傘をさし、レース付きの長手袋をはめ、黒っぽい服を着ていた。そんなに日焼けするのが嫌なら、家にいればいいのにとトオルは人混みを避けながら考えた。

しかし、その中で20才前後の女性だけは日焼けよりファッションを楽しんでいるのか、素足にカチャカチャと足音をたてるサンダルやミュールを履き、腕も胸元もむき出しだった。それはそれで目のやり場に困る。トオルは誰をも見ないようにさらに早歩きで追い越していった。

続きを読む

スポンサーサイト

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/19 16:25 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (2)

イワヤマトオルは大学3年生。トオルの前に座っているのは彼と同じ学部・学科、同じゼミのカワシママリアである。

トオルはマリアにしょっちゅう頼みごとで呼び出されていた。

「何でいつも俺なんだよ。」

「ごめーん、だってまじめに講義に出てるのって、
 トオル君くらいでしょ。」

ぶっきらぼうに言うトオルにマリアが無邪気に答えた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/20 14:39 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (3)

マリアは他の女子学生に較べるとちょっと変わっているかもしれない。オシャレにいそしむとか、ファッションに凝るとか、友だち同士で遊びに行くとか、想像できる女子学生のイメージからはかけ離れていた。

バイトに精を出し、一人で行動することのほうが多かった。だからといって、目立たない学生というわけでもなく、基本的に明るい性格で、講義をすっぽかすわりには教授からの信頼も厚かった。

さして美人ではないのに愛嬌のある顔立ちをしている。マリアという名前から、日本人離れのハーフのような顔を思い浮かべるが、彼女曰く、生粋の日本人、正真正銘の日本の田舎生まれ。彼女の母親が、”これからは世界で通用する名前にするべき”と、よりにもよってキリスト教のマリア様から名を頂いたらしいが、家はキリスト教でもなく仏教をちょっと”嗜む”程度だという。

 仏教を嗜むって、どういう意味だよ。
 なら、マリアじゃなくて、マヤでいいんじゃねぇの?
 (釈迦の母親は確かマーヤーだったよな。)

トオルはマリアの表現を面白がって、心の中でツッコミを入れていた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/21 08:48 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (4)

「ほんとありがと。
 助かった~。」

マリアが話しかけてきてトオルは回想から我に返り、曖昧に返事をした。

クリームソーダが入っていたグラスは、アイスクリームの乳成分の泡をくっつけたままの氷が残っているだけだった。

「ここは私が奢るから安心して。」

マリアは屈託もない笑みを浮かべてトオルに言った。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/22 11:10 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (5)

マリアはバイト先である音楽教室に戻って制服から私服に着替えると、バッグを持って急いで大学へ向った。そこから歩けば約20分くらいで着く。

バイト先の選り好みは極力しないが、大学に近ければ近いほうがいいに決まっているので、週2回、3時間の音楽教室でのバイトは悪くなかった。制服もあるし、教室の先生2人と正社員の事務員だけなので人間関係にさほど悩まなくていい。

ファミレスのバイトは週4日で、時給は高くなくとも時間帯の融通が利くのが学生のマリアにとっては好都合だった。それでも人手が足りてないときも予定外で入ってしまうことがあり、講義に出られないことがあるため、几帳面に講義のノートをとるトオルを当てにしているのだ。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/23 00:57 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (6)

金曜日の午後、ゼミにマリアは現れた。トオルは数人のゼミ生とともにすでに部屋にいたが、マリアが入ってくるのがわかるとわざと気づかなかったふりをした。

「トオル君、サンキュー。」

マリアはそう言って、トオルの前に、彼に借りたルーズリーフとプリントを出して返した。

「お、・・・おぅ。」

口数少なくトオルはマリアからそれらを受け取った。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/24 01:07 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (7)

週末の合コンは最悪だった。ワカナが集めてきた某大学の男子大学生たちの5人の面々はどう見たって派手で、学籍を置いてるだけで勉強してるかどうか怪しい、遊び人にしか見えない奴らだとマリアは感じた。

剃って描いた薄い眉、乱れたような金髪や茶髪を撫でつけ、無精髭に見えるが手入れしているのであろうチョビ髭、だらしなそうに見える流行の服、はだけた胸にはペンダントを着けている者もいるし、何より揃いも揃って中身がないのに口が上手そうだと心の中で辛口に評した。

 ワカナの好みって、こういう軽いのがいいのかな。
 三流のホストクラブみたいだわ。
 大学生だっていろいろいるだろうに、よりによって・・・。

遅れてやってきたマリアは遠目から合コンの様子をうかがいつつ、ゲンナリと脱力した。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/25 00:48 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (8)

マリアたちの大学では、蝉たちの鳴き声が賑やかな7月の末から8月の初めにかけて、前期試験が行なわれた。さすがにマリアも、バイトの日数を減らして試験勉強に取り組んできたが、やっと最終日の選択教科の試験を終えて教室から出てくると、廊下の壁にもたれて窓辺でガチャが立っていた。

「お疲れさ~んっ!」

「あれ? ガチャもこの講義とってたんだっけ?」

「ちげーよ。おまえを待ってた。」

「何で?」

「話があるからに決まってんじゃんか。
 とにかく外へ出ようぜ。
 中央広場でみんな待ってるし。」

「みんな?」

勉強疲れで頭が回らないマリアはガチャの言うことがよく飲み込めないまま、一緒に校舎の外へ出た。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/25 14:57 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (9)

トオルは後悔していた。ガチャのライブの打ち上げに行ったとき、酔っていてついコテージのことを話してしまったが、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。

親の反対を押し切って今の大学に入ったのだ。どう頭を下げて、父にコテージを借りていいか考えるだけで気が重かった。


続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/26 08:45 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (10)

打ち上げの飲み会は大衆的な居酒屋ですることになり、まだ客席は空いていて、二十数人の学生達が入っていくと店の中が急に活気づいた。

必修の講義で一緒になることはあっても、同じ学科ながらよく知らない者同士でもある。もっとも、同じ学科にはもっと学生がいるのだが、打ち上げに集まったのは半分だけだった。

「体育会系の部活やってる奴は来れねぇし、
 それと、マリアだけじゃなくてさー、
 バイトしてる奴も多いからな。
 つーか、おまえが今日はバイトがないのなんて
 ミラクルだよな。」

マリアの向かい側に座ったガチャが笑ってからかった。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/27 01:14 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (11)

飲み会は8時過ぎにはお開きになった。飲み会といっても、今どきの彼らは酔いつぶれるほどには飲まないらしく、会費を集めた分で充分足りた。ガチャが会計を済ましていると、

「忘れ物だぞ。約1名。」

と、仲間の一人が店を出しなに声をかけた。ガチャが振り返って見ると、トオルがテーブルにうつ伏しているマリアに呼びかけている姿が目に映った。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/28 00:12 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (12)

ガチャもトオルも汗を流すのに交代でシャワーを浴び、ガチャはトオルの服を借りて着替え、トオルは冷蔵庫から缶ビールとつまみを持ってリビングに戻ってきた。

30畳はあるリビングはきれいに片付いていて、オーディオとテレビ、ラックの類いが整然と並んでいた。ソファに寝ているマリアを横目で見ながら、二人は床に敷いてあるラグの上に座り、テーブルにビールとつまみを置いて飲みなおし始めた。壁に架かるアナログ時計の針は、10時半をまわるところだ。

「じゃ、再び乾杯!」

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/29 01:00 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (13)

泊まると決まったところで、やっとマリアも腹を決めたのか落ち着きを取り戻し、トオルたちのようにテーブルを囲んでラグの上に座った。

「ほんと、ごめんね。
 あたし、下戸のくせに、すきっ腹に飲んだから、
 酔いが早くまわったと思うんだ。
 いつもだったらチューハイくらいは平気なのに。」

マリアはまだ謝り続けていたが、

「下戸って、蛙じゃあるめぇし。
 ゲロ吐かなかっただけましじゃね?
 そうなったら最悪だ。」

と、ガチャが冗談を飛ばすのを聞いた途端、先日の合コンのことを思い出し、プッと噴き出した。

「え?  ウケた?
 今の駄洒落で?」

ガチャが訳もわからず意外そうに言うので、マリアは尚更、面白がった。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/30 01:11 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (14)

からっと晴れた夏らしい日差しの中、トオルはマリアと待ち合わせした後、サマーフェスタの会場に向って車を走らせていた。

ガチャから出演日が決まったとメールをもらったとき、すぐにマリアに連絡を入れると都合のいいことにその日はマリアのバイトがない日だった。

 ガチャだったら言うだろうな。「ミラクルだ!」って。
 あいつ、ポジティブシンキングだから、
 「神様が俺のためにマリアをバイトから解放してくれた」
 って、言いそうだ。

トオルは運転しながら笑いがこみ上げてきたが、マリアに気づかれまいと表情に出ないように堪えた。


続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/05/31 00:14 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (15)

ガチャたちのライブは初日のトリだった。一日5つのバンドが交代でライブを行い、持ち歌を3曲ずつ歌うことになっている。フェスタのプログラムを見ると、ガチャが気にしていたイケメンバンドも同じ日にライブをするらしいとトオルがマリアに言った。

「ガチャのバンドの名前って、
 G&F・・・って言うんだ?」

マリアはプログラムを見て初めて知ったという顔をした。

「あれ? 言ってなかったっけ?
 ジー・アンド・エフ、
 ガッツ・アンド・ファイトって意味だぜ。」

「へぇぇ。熱血のガチャらしいネーミング。
 でも・・・ガチャ・アンド・フレンズ、
 ガチャと愉快な仲間たち・・・
 とも言えそうね。」

と、マリアがにこやかに言った。

 愉快な仲間たち?

ガチャの他に髭面のベーシストやマッチョなドラマー、キーボードの細面の顔のメンバーが脳裏をよぎり、トオルは噴き出して声をあげて笑った。

「おもしれー。
 それいいんじゃね。
 ガチャに教えてやろう。」

笑いのツボにハマったのか、トオルは笑い続けていた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/01 00:32 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (16)

ライブフェスタ初日の最後は5つのバンドが再び舞台に上がり盛大に終わった。いくつかの出口に向って人々が進み始めたが、バックステージへ出待ちをしに行くファンも大勢いて、ガチャたちと合流するつもりがどうもできそうにないと、トオルはガチャのケータイに連絡を入れた。

「おー! トオル、俺たちのライブどうだった?
 マリアも来てんのか?」

「ああ、すっげぇ最高だった。
 マリアも感極まってたぞ。」

「そうか、そうか、そうだろうとも!」

トオルよりガチャのほうが興奮気味だった。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/02 01:55 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (17)

フェスタの帰り、美味しいと評判のラーメン屋に立ち寄り、遅い夕飯をすませて、再び車でマリアの住んでいるという下宿のマンション近くまでトオルが送って行ったのはもう夜の11時過ぎだった。

路地を入った住宅地に6階建てくらいだろうか、小さなマンションがあった。夜目でよくわからないが古びているように見える。マリアはトオルの視線を気にしながら、

「トオル君のとことずいぶん違うでしょ?
 でも住めば都なのよ。」

と、ややはにかんで言った。トオルは、

「マリアは立派だよ。
 きちんと自活してるんだからな。
 俺んちは親が持ってるマンションだから。
 気にすることねぇよ。」

と、引け目を感じているらしいマリアを気遣って言った。彼女は何か考えていたが、

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/03 00:42 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (18)

昨夜トオルは帰宅してからすぐにベッドに入ったが眠ろうとしても眠れず、思いにふけってやっと眠りについたのが明け方だった。それから昼過ぎまで寝ていて、ガチャからケータイに電話が入ったときにようやく目が覚めた。

「今まで寝てたのか?
 俺も実は今起きたとこだ。
 昨日はお疲れさん。」

と、今起きたにしては相変わらずガチャの声は元気だ。キャンプの計画を進めておきたいからトオルのマンションに行ってもいいかという内容のことを言い、OKだと返事をすると電話を切った。トオルの頭の芯はまだぼうっとして、しばらく身を起こしたままじっとしていたが、のろのろとベッドから立ち上がり、キッチンへ行ってミネラルウォーターを飲んだ。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/04 00:22 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (19)

トオルとガチャが話し込んでいる最中に、インターホンが鳴った。誰だろうと受話器をとると、トオルの母親だった。ついでがあって車を取りに立ち寄ったのだと言う。トオルは扉の錠を開けて、車のキーを自室に取りに行くと、母親はもう上がりこみ始めていた。

「あら、お客様?」

明るい陽気な人柄らしい彼女がひょっこりと部屋の奥を覗くと、ガチャが慌てて正座して頭を下げているのが見え、

「こんにちは。トオルの母です。
 そんなに畏まらなくていいわよ~。
 楽にしててね。
 ちょっとトオルに用があるだけだから。」

と気軽に声をかけた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/05 16:32 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (20)

マリアは午前から夕方までのバイトを終えて、下宿しているマンションに帰ってくると、ちょうどマンションの住人たちも着飾って出勤するところにかち合った。

「マリアちゃ~ん、これからバイト?」

「ううん。働いて帰ってきたとこです。」

「あんたも大変ね。
 そう、そう、五目御飯美味しかったわ~。
 ごちそうさま。」

と、口々にマリアに礼を言って、いそいそと出かけていった。改造したと彼女らが笑って言うスタイルは自分よりずっと女らしく、化粧も完璧で、しぐさも可愛いと、マリアは羨ましく思った。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/06 15:42 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (21)

9月に入って、ガチャからトオルのケータイへメールが入った。キャンプの日取りと人数が決まったから、あとはコテージの用意を頼むとあった。

人数は結局10人ほどで、ガチャは予想していたより少なくてガッカリしたらしい。トオルのほうでは、仮に学科の者が全員来られても収拾がつかなくなりそうだと怖れていただけにホッとしていた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/07 22:37 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (22)

キャンプの日が近づいた頃には、思いのほか残暑はさほどでもなくなって、秋を感じさせる爽やかな風すら吹き始めた。天気予報によるとキャンプ当日は曇りの予想だったが、ガチャは張り切って参加者に雨天決行とメールを送りつけ、嬉々として準備にかかっていた。

キャンプ前日になって、バイトしていたマリアのケータイにはマッツからのメールが入っていた。キャンプには不参加のつもりだったが、今からでも参加できるかという問い合わせだった。バイトが終わってからマリアはガチャにそのことを伝えると、何人増えようが直前だろうが大歓迎だという返事が返ってきてすぐマッツに電話をかけた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/08 23:25 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (23)

キャンプに参加する仲間達の待ち合わせ場所にはガチャが一人、イライラしながら待っていた。そこへマリアとマッツが大きなバッグを持って急ぎ足でやってきたのを見つけるやすぐに、

「おっせぇーぞ、おまえら!」

と、大声で叫んでから、呼吸が止まったようにマッツの横にいるマリアを見つめた。何かが違う。いつもより女っぽい、とガチャは思った。

「おまえ、マリア・・・だよな?
 一体どうした、その格好?」

マリアは何か言おうとしたが、

「あー、そんなことは後回しだ。
 さっさと荷物ともども乗り込め!」

と我に返ったガチャに言われて、慌てて駐車してあったバンの後ろに荷物を下ろし、三人が乗り込み、シートベルトを着けるや走り出した。

「他のみんなは?」

とマリアが尋ねると、

「もうとっくに向ってるよ。
 俺とトオル以外の男どもで車一台、
 トオルは女の子4人を乗せてった。
 俺が乗せてくつもりだったのに、
 トオルのほうがいいんだとよ。」

と、マリアをバックミラーで見ながら意味ありげにガチャが言ったが、

「1台の車に5人?
 窮屈そうねぇ~。」

マリアの反応がいたってのどかな様子なので、ガチャは首を振って、そういう意味じゃねーだろとガッカリした。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/09 22:59 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (24)

車から運び出したバーベキューの材料はとりあえず冷蔵庫に片付けようとコテージへ持って行き、コンロや燃料など他の器材はコテージの外に置いたままにした。テーブルや椅子はトオルがすでに用意して外に出してあった。

マリアは自分の大きなバッグから、二重にした手提げのビニール袋を取り出し、実家から送ってきたサツマイモだとトオルに渡した。気を遣わなくていいって言ったのにと内心では不満に思いながらも、彼は素直に受け取った。そのほうが彼女が喜ぶのをわかっていたからだ。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/10 08:29 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (25)

林の散策からいったんコテージにみんなが帰り着いた頃には日も傾きかけて、そろそろバーベキューの準備をしようとガチャが呼びかけ、コテージの庭の真ん中に器材を持って行って組み立て始めた。他のみんなもそれぞれの役割分担に沿って動き始めた。

女達はバーベキューに使う食材をコテージのキッチンで切り分ける作業に追われ、男達はテーブルや椅子をセッティングし、切り分けてアルミの皿に盛られた食材を外へ運び出していた。マッツは食器類を運んできてテーブルにのせた後、コテージに引き返そうとしたところでガチャに声をかけられた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/11 22:46 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (26)

二人が仲間たちに加わると、すでにバーベキューの準備が整って、いつものようにガチャが乾杯の音頭をとるのをみんな待っていた。マッツはマリアの傍にやってきたが、さっきまでのマッツとは様子が違うことにマリアは気づいた。

「ガチャと何かあった?」

と他の者に気づかれないよう小声で尋ねたが、マッツは顔を上げずに首を振り、何でもないと言うだけだった。その間にガチャが思い出を作ろうなどと叫んでいる声が聞こえ、乾杯の言葉とともにみんなが一斉に声をあげた。

コンロの上では食材が香ばしい匂いをたてて、それぞれがついばみ、飲んで食べて、ガチャのトークに笑い、喋り、木立の一角は賑わっていた。トオルを目当てにしていた女子4人組もこのときは他の仲間とも交流していた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/12 23:02 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (27)

野外でのバーベキューの宴はガチャの応援歌でお開きとなり、のろのろとみんなが片づけ始めた。男子3人組と女子4人組は別行動していたのがいつのまにか仲良くなって、お互いに手伝い合ったし、マッツもマリアの陰に隠れがちだったのが、みんなの中に溶け込むようになっていた。

「なっ! この企画、良かったろ?」

と、得意そうにガチャがテーブルを片付けながらトオルに言った。

「せっかく同じ学科で勉強してんのに、
 楽しい時間を過ごす機会がないなんてつまんねーもんな。
 トオルにはコテージ貸してもらって感謝してるぜ。」

「最初はどうなるかと思ったけど、
 さすがガチャだよな。
 俺も場所が提供できてよかったよ。」

ガチャとトオルがテーブルをコテージの隅へ運んでいき、他のみんなも彼らの手伝いに加わって椅子を運んでいた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/13 22:23 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (28)

トオルの元カノは、ハタオカヤヨイという23歳の音大を卒業したての若手バイオリニストだった。彼女とは、音楽教室の講師をしている友人に会いたいと、受付にいたマリアに話しかけたのが出会ったきっかけだった。その日のことをマリアは苦々しく思い返した。

友人である講師がやってくるのを待つ間、ヤヨイが暇つぶしに、教室で使う教材の片付をしていたマリア相手に喋りかけ、マリアが学生アルバイトだと知るや、大学名や学科まで聞き出そうとした。

どこの大学に通っているかで、学力や偏差値を量り、学生の値踏みをする人も多く、教室に子どもを通わせているお母さん方にもよく尋ねられるため、マリアはまたかと渋々答えた。するとヤヨイは急に目を輝かせて、イワヤマトオルを知っているかと聞いてきたのだ。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/14 23:54 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (29)

翌朝は誰もが眠りこけて起きてくる者がいなかったが、ただ一人、マリアだけが早起きして身支度を整えると、そっとコテージのキッチンへ向った。冷蔵庫を開けて、昨夜のバーベキューで使った食材の残りを出し、野菜炒めを作り、ゆで卵を作り、コーヒーメーカーのセットをして、パンもみんなが起きてくる頃にすぐに焼けるように用意しておいた。

コテージの中は朝日が差し込んで明るく、外へ出てみると昨日と違ってすっかり晴れあがった空で、林の中も朝露で光り輝くようだった。気温は低く肌寒かったが、清々しい朝の空気を胸いっぱい吸い込むと気持ちもリフレッシュして晴れやかになった。

しばらくコテージのテラスのところで佇んでいると、

「もう起きてきたのか。」

と、後ろから声がした。トオルの声だ。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/15 23:18 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)

dearマリア (30)

結局、仲間達が起き始めたのは、8時を過ぎてからで、順々にリビングに顔をだした。女性たちはリビングに来る前に化粧も済ませようとしたので、全員が揃うまでは時間がかかった。

野菜炒めを温めなおし、すっかり朝食の準備が整っているのを見て、男たちは喜んだが、女子4人組は男子たちに対するマリアの点数稼ぎと受け取ったらしく、食後の後片付けはこぞってマリアを出し抜いて、いいところを見せようと必死になっていた。マッツはマリアの手際のよさに感心しながら、自分はのろまだからと卑下するので、マリアはなだめていた。

続きを読む

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2010/06/16 23:12 ] 『dearマリア』 | TB(-) | CM(-)