水色書架

自作の一般向け現代小説を書いています。長編短編をご用意しております。
はじめに
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作品リスト  [ 『勾鱗奇譚』 ]

勾鱗奇譚 (1)

肌寒さに身震いして青年が目を覚ますとそこは真っ暗闇だった。大木で覆い尽くされ鬱蒼とした森の中は、昼間でも薄暗いだろうに、とっくに日が落ちた夜ともなれば、視覚など何の役にも立たない。寧ろ、聴覚が研ぎ澄まされ、動物の影すらない静けさの中、石ころが転がる音にも過敏に反応して、得体のしれない恐怖に襲われる。

 俺はなんでこんな所にいる羽目になったんだ。

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[ 2012/12/10 11:31 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (2)

夏とはいえ、山中での夜気はひやりと冷たい。斜面にもたれて力なく地べたに座り込んでいるソウシの近くでは、複数の怪しい霞の玉がまだうろうろと漂っている。鳥肌がたつほどの寒気を覚えるのは、夜気だけのせいではなく、これらがまとわりついてくるせいだ。

 くそっ!
 やけに数が多いな。
 ここが禁足地だからか。
 だから集まりやすいのか。

突然、ごおっと唸りを上げて一陣の風が森の木々を揺さぶった。ソウシの頭上で、てんでに枝が葉擦れの音を立て、無気味さが増していく。

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[ 2012/12/13 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (3)

白い霞の玉は失せたわけではない。浄めの塩のせいで近づけないでいるだけで、森のそこここに潜んでいるとソウシは感じていた。片方のレンズがはずれたままのメガネではどのみち、霊体を見ずにすむことはできないだろう。彼はメガネをはずすと、ウエストポーチの中にしまいこんだ。

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[ 2012/12/16 10:13 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (4)

風が吹くと枝のざわめきが恐ろしいほど吠えるのに、風が止まると、今度は身の毛がよだつほどの静寂が辺りを支配する。懐中電灯がなければ一寸先も見えない墨染めの世界にいる孤独感はたまらない。

眠気が差してくるが、神経が尖りすぎて居眠りすらできず、目を閉じていても、肌身でこの世ならぬ物の気配を感じる。いくら霊的なものに慣れているソウシですら、今自分が生きているのかどうか疑いたくなるほど異様な感覚になるのだ。彼は無理にでも現実的な事を考えて気を紛らせようと努めた。

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[ 2012/12/19 10:18 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (5)

塩を供え、結界をこさえた内側で、挫いた左足を伸ばしたままソウシはじっとしているが、取り巻くように怪しげな気配が集まり始めているのに彼は気づいていた。これらはまだ大したことはない。結界の中には入れない類いのものだからだ。だが、彼が、来るなと強く念じているものが忍び寄ってきている。神社の背後の山を覆っていた影の本体に違いないと確信していた。

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[ 2012/12/22 10:40 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (6)

長い石段を男女の学生が小さなライトの光を頼りに上っていった。ソウシは列の一番後ろを歩く。叢で鳴く虫の音より背後から水量の多い川の流れる音のほうが、静寂の中で際立って聞こえていた。怖いだの、不気味だのと口では言いながら、皆どこか興奮気味だ。日のある時間に歩いたときより石段が長く感じる。辺りをライトで照らしても木立があるばかりで、明かりに反応した蛾か何かの虫が飛び回り、女子たちを驚かせていた。それを他の者がからかい、また、怖がらせようとライトを顎の下から当てて、お化けの真似をするなどして騒ぐ。

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[ 2012/12/25 10:04 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (7)

再びソウシたちは石段とは反対の奥へ向かって行った。手を伸ばして遠くまで光を飛ばしてみると、前方の木立の間に実体のある人影が見えた。

「マドカ!」

ミノリが精一杯声を上げて呼びかけたが、マドカの様子がおかしい。明かりもないのに、ふらふらと歩いている。まるで何かに誘われているかのようだ。ソウシはメガネをずらしてマドカの周辺を見透かそうとした。すると、彼女の体に霊体が巻きついているのがわかった。しかも複数だ。

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[ 2012/12/28 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (8)

魔物の手から離れるため、よろめきながら前に進んでいたソウシは、ウエストポーチを探って懐中電灯を取り出した。土地勘もないのに闇雲に走って、いつまた崖っぷちから落ちるかもしれないのだ。ライトを点け、左足も全身の傷の痛みも忘れて、ただ前進した。

さっきまで聞こえていたかすかな水の流れる音がよりはっきりと聞こえてきた。道に沿って川が流れているのだろう。後ろは振り返らなかったが、背後に感じていた魔物の気配が薄れていくのを感じた。

 浄めの塩が少しでも効いたのだろうか。

だが、油断はできない。あれは霊体であって、どこに出没するかわからないとソウシは緊張しながら前に進んだ。上りの勾配がきつくなってきて息が切れ、ときにつまずいてよろけながらも、立ち止まることはできなかった。

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[ 2012/12/31 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (9)

年の頃、14,5才くらいであろうか、小娘が杖を頼りに覚束ない足取りで泉のほとりまでやってきた。草履を履いた白い足や丈の短い着物の裾はは土を跳ね上げて汚れている。杖にしているのは、戦場の跡から拾ってきたものであろう弦の切れた大弓だった。背の半分あたりまである豊かな黒髪をした娘の瞳は、朧で視線が定まっていない。目が見えないらしい。そのくせ杖を頼ってでも目的のところに来られるのだから、まったく視力を失っているわけでもないのだろう。娘はその場にかがむと杖代わりの大弓を丁寧に置き、両手を合わせて一心に祈り始めた。

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[ 2013/01/03 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (10)

すでに日は落ち、森は暗闇に完全に包まれた。不気味に唸る風の音に奇妙な音も紛れている。引き摺るような重い音だ。それに淀んだ沼の、生臭い匂いまでもが漂ってくる。

「無駄に命を落としたくなければ、
 さっさと立ち去るがいい。
 そなたにはまだ心残りもあろう。」

男は娘に言い放った。娘は一礼をして踵を返し、弓の先で足元を探りながら帰り道を辿り始めた。もともと目の見えない彼女にとって、昼も夜もさして変わりはないのだろう。男はその場で見送っていたが、辺りに立ち込める邪気が強まっていくのを危惧して、このまま放っておくことができなくなった。

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[ 2013/01/06 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (11)

次の日、いつもと同じ刻限にヤエは泉にやってきた。そしていつもと同じように白衣一枚になると泉で禊をし、祈っていた。龍の男も叢に寝そべって様子を見ていたが、姿を見られる心配が無用になった分だけ傍近くにいた。禊が終わり、娘が着替え終わるのを見届けると、男は立ち上がって声をかけた。

「ヤエ。
 少し話してゆかぬか。」

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[ 2013/01/09 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (12)

ある雨の日だった。その日もヤエは編み笠をかぶり、蓑をまとって泉までやってきた。草履履きの足元が滑って転げそうになるのをどうにか大弓で支えたが、用心しながら歩を進めていたため、泉に着くのはいつもよりずいぶん遅くなった。レンは龍の姿で叢に身を潜めたまま待ちくたびれていた。

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[ 2013/01/12 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (13)

ヤエは弓弦のない大弓で道を探りながら山道を登ってきた。泉の淵にまでもう一方の手で草をかき分けてたどり着くと、ずっとこれまでしてきたように、上に着ていた着物だけを脱いだ白衣姿になり泉の中に入っていった。

龍も人の姿にやつして叢の中で待っていた。満月になる今日はヤエの願掛けも満願の日。いつのまにかレンの体もすっかり復調して具合が良くなっていたのは、ヤエの浄めの力によるものだ。もっともヤエ自身、己れの浄めの力に気づいていないようだった。

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[ 2013/01/17 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (14)

中空から見下ろしていた龍はゆるりと体をくねらせてミズチの後を追った。ミズチの声が聞こえる。

「わしのものじゃ。
 この一帯を手にするのはわしじゃ。」

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[ 2013/01/20 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (15)

大蛇が鎌首を伸ばして今にも迫ってこようというとき、レンが動くより先に何かが鎌首を押しとどめていることに気づいた。大蛇のほうでも見えぬ何かに阻まれて怯んだ。

「何じゃ。」

鎌首が左右に揺らされる。

「何がわしの邪魔をするのか。」

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[ 2013/01/23 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (16)

パチパチと何かがはぜる音がし、熱が伝わってくるのを感じて、ソウシはだるそうに目を開けた。見慣れない場所、古い粗末な家屋の中にいて、板敷の床に毛布を何枚も重ねて彼自身も毛布にくるまれて転がっているのがわかった。だが、頭の中がすっかり混乱していてどういう状況にいるのかさっぱり呑み込めない。

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[ 2013/01/26 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (17)

雨に打たれて冷え切っていたはずの体が毛布と暖炉の温もりで癒され、人心地つきながらも、興奮のせいかソウシは眠りにつくことができなかった。山の管理人である髭面の男に全てを話した後、そういえばヤエはあれからどうなったのだろうと気がかりになった。夢かもしれないのに夢の続きを知りたいなんて馬鹿らしいと一方では自ら呆れつつ、だが、どうしても夢幻と片付けることができない。

「あなたはずっとこの辺に住んでおられるんですか。」

ソウシは髭面の男に尋ねた。男はこの若者をじっと凝視して黙っていたが、暖炉の傍に木で作った丸椅子を持ってきて、どっかりと座ると話し始めた。

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[ 2013/01/29 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (18)

ソウシがいる小屋は約10坪ほどあるだろうか。戸口を開けてすぐ土間があり、土間の一角に薪をくべる暖炉がある。一段高くなった床は板敷で、ソウシがいる反対側には山で使う伐採用の道具類が置かれていた。作業員が数人は寝泊まりできる広さだが、かなり古い。髭面の男が床に上がって歩くと、ギシギシと激しく軋む音がする。

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[ 2013/02/01 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (19)

すっかり朝になり、太陽が照らし始めると、夏場の気温が一気に上がり出す。暖炉のせいで小屋の中は蒸し暑いほどになってきたため、ソウシは毛布を脱いで裸の上半身を晒した。髭の男は濡れたソウシの服の乾き具合を確かめ、Tシャツとトランクスだけを放り投げてきた。

「ズボンはまだ湿っとる。
 もう少し乾かした方がいい。」

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[ 2013/02/04 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (20)

神社の前で撮った画像、河原でバーベキューしたときの画像、宿泊施設の室内での画像など一つ一つソウシは目を近づけて見入った。

「アマノ君、メガネかけてないんだ?」

「ああ、・・・壊れた。」

機械的にソウシが答えると、ミノリは、

「崖から落っこちたときに壊れたの?
 あたし、弁償するよ。」

と、しょげて神妙になった。そんなことはいいと、やはり機械的に返したが、彼は別のことに集中していた。そこにないはずのものを見る霊視だ。普通の人にならケータイの画像におかしなものが映りこんでいるのなどわからないだろうが、ソウシはどの画像にも何かが紛れているのを見つけていた。

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[ 2013/02/07 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (21)

ソウシの濡れたズボンを乾かすのに暖炉を焚き続けていたせいで、小屋の中はかなり暑くなってきていた。毛布の中にいるソウシはもちろん、ミノリも額から汗を流し暑い暑いとぼやいていたが、ようやく薪の火も小さくなって消えた。

髭の男は戸口と壁面に一つだけある窓を開け、戸外の空気を入れた。夏場でも山の空気はまだ涼しさが残っていて、閉鎖されていた屋内に新鮮な息吹をもたらした。外は明け方までの雨が嘘のように晴れ上がって、強い日差しが入り込んでくる。

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[ 2013/02/10 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (22)

ソウシは勾玉を髭の男の毛むくじゃらの手に丁寧に返してから、毛布をめくりズボンを穿こうと、座ったままゆっくり包帯を巻いた左足に裾を通した。湿布のせいか、痛みはだいぶましになっていたが、まだ無理はできない。左足首だけではなく、体中が傷で疼くし、筋肉痛もひどい。骨まで軋んでいるかのようで、ロボットのような動きしかとれなかった。

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[ 2013/02/13 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (23)

ソウシができるだけ端折って龍と娘の不思議な話を聞かせ終えると、ミノリはさっきの霊の話よりは興味津々で食いつくような眼差しを彼に向けた。

「それ、アマノ君が見た出来事だよね?」

「うん。・・・だと思ってるんだけどな。」

自信なさげにソウシが言うと、ミノリがどういうことかと問い返してきた。

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[ 2013/02/16 12:25 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (24)

夏の日差しの中で改めてミノリを間近で見ると、髪の毛で隠れがちな耳には傷がある。柔道をやっていると畳に耳がこすれてできるとは聞いている。おそらく、肘や腕にも畳でこすった痕があるだろう。そのときふと、ソウシを支える彼女の手首は負傷していたはずだと思い出し、

「ちょっと待て。
 おまえ、手、怪我してたんじゃなかったっけ?」

と、慌てて離れようとした。が、ソウシをがっちり掴んで離さないミノリは、

「ああ、これもう治っちゃってるし、平気よ。」

とあっけらかんと答えた。

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[ 2013/02/19 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (25)

山の奥へと続く狭い道はミノリがソウシを支えながら二人で並んで歩くにはギリギリだったが、片側の斜面に沿って坂を上っていった。

「悪いな。俺の気まぐれに付き合わせて。」

ソウシは懸命に彼を支えるミノリに気遣って何度も言ったが、へっちゃらだ、気にするなとミノリも何度も返した。やがて、遠目から見えていた霊体の影が通っていた辺りにやってきた。ソウシが立ち止まると、ミノリも動きを止めた。何があるのだろうとキョロキョロしたがもちろん彼女には何も見えない。

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[ 2013/02/22 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (26)

緑の葉の匂いが満ちる山の空気、それに混じる柔らかい土の匂い、清らかな水の匂いに身を委ねたとき、ソウシはふわふわと浮いている気分を味わった。周囲のすべてのものが霞に覆われて薄らいでゆく。遠くではまた声が聞こえる。だがミノリの声ではない。

 誰だろう。
 女の声・・・。

一人ではなく複数の女の声が聞こえてきた。

「今日はヤエ様はお山にゆかれないのですか。」

こう言ったのは少女のような若い娘だ。

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[ 2013/02/25 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (27)

いつのまにか場面が変わったとソウシが気づいたのは、さっきまでののどかな女たちの四方山話の流れと違って、陰気な雰囲気になっていたからだ。目に映るものは何もなく、声だけが聞こえてきた。

「ようやく熱は下がったようです。」

これはさっきの中年女の声だとソウシは思った。

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[ 2013/02/28 12:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (28)

しんと静まり、草や枝葉が風になびく音が聞こえるだけで、もはや優しい声も姿もなくなっていた。そこで初めてイオエは道に迷ったとわかった。とっぷりと日は暮れ、このような山奥にやってくる人などいるはずもない。ヤエももう山を下りている頃である。少女は絶望的な気持ちとともに、言いつけを守らなかった自らを責めた。

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[ 2013/03/03 18:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (29)

夜空には砂を撒き散らしたように無数の星が瞬いて、晴天の夜だった。にもかかわらず、ヤエの眼差しは鋭く睨みをきかせていた。イオエもヤエの視線の先を追った。

「そうか、今宵は暗月の夜であったか。」

「暗月。」

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[ 2013/03/06 18:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)

勾鱗奇譚 (30)

泉をぐるりと取り巻く木々から、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。日差しは眩しく、緑の葉にも反射してそこここできらきらと輝いている。目の前には透き通った水が広がっていて、漂う空気すらも清々しい。ミノリは地べたに座ったまま大きく伸びをして深呼吸した。その傍らには、ソウシが横たわっている。

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[ 2013/03/09 18:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)