水色書架

自作の一般向け現代小説を書いています。長編短編をご用意しております。
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作品リスト  [ 『もの憂げな三日月』 ]

もの憂げな三日月 (1)

一戸建ての家々が連なる閑静な街の一角に、和風建築の古びた屋敷がある。いかめしい門構えの向こうには松の木がそびえ立つ庭と、門から二階建ての広い家の玄関まで石畳が続き、横手には小さな離れもあった。その家の裏側にある二階のベランダでは、この屋敷の若嫁であるタカノマナミが山のような洗濯物を一つ一つピンチではさんで干していた。

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[ 2011/07/04 11:44 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (2)

家の中はベランダでの静けさとは対照的に騒々しい。姑のシズカの声が甲高く大きいのと、動作が派手で廊下を歩く音も激しいせいで、どこからどこへ向って歩いているのかわかるほどである。物音を頼りにマナミは姑のあとを追った。

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[ 2011/07/06 10:38 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (3)

マナミが悩んでいるのは、正確に言えばタカノ家の人々だけではない。タカノ家に繋がる人々と言い換えたほうが正しかった。

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[ 2011/07/08 09:53 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (4)

天声お導きノ会がある建物は一般の住宅とそう見分けがつかないごく普通の家で、マナミは拍子抜けしたものだった。しかし、中に入ってみると意外に奥行きがあり、中庭が見え、長い廊下を通った先に、和室の大広間が二部屋続きになっていた。信者たちも何人かいた。

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[ 2011/07/10 11:06 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (5)

姑シズカもさることながら、サヨコ・カナコ姉妹という小姑たちもマナミにとっては悩ましい人たちだった。小姑一人は鬼千匹と言うが、だとするなら、鬼二千匹だと彼女は痛感していた。

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[ 2011/07/12 22:59 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (6)

結婚生活に夢を描いたことがないといえば嘘になる。同居とはいえ、家族みんなで仲良く暮らし、子どもができて、笑ったり戸惑ったりしながら幸せを共有できたらと望んできたのだが、今のマナミには共有できることがなかった。むしろ、孤独を感じ、閉塞感しか持てなかった。

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[ 2011/07/14 23:58 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (7)

姑と義妹のカナコが出かけて、タカノ家に残っているのはマナミだけになった。朝食の後片付けを終え、マナミ夫婦が使う2階に戻り、寝室と和室の掃除をすっかり済ませてから、ドレッサーの一つの引き出しを開けた。そこには化粧品ではなく、書類が詰め込まれている。全て自分で書いた料理のレシピの束だ。

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[ 2011/07/16 23:54 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (8)

タカノ家の離れを改造したクッキング教室は、外観が和風建築でありながら、扉を開ければ採光を活かした明るいフローリングが広がっており、シンク・調理台やIH器具、オーブンがいくつか設置されている。そこへ週に二日、タカノ家からそう遠くないところに住んでいる8人程度の生徒たちがそれぞれ集ってくるのである。

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[ 2011/07/18 23:48 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (9)

母屋に戻ったマナミが台所に向うと、出かけていた姑シズカもすでに帰宅していた。

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[ 2011/07/20 23:29 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (10)

姑シズカと義姉サヨコはすっかりお喋りに夢中になっている。母親と同じように栗饅頭を一つ二つとつまみながら、マナミが淹れてやったお茶を啜り、なくなるとおかわりをねだる。いつものことだ。

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[ 2011/07/23 00:38 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (11)

マナミも同じ食卓で夕飯をとる中、話題に入ろうとしても、例の宗教じみた話になると入れない。サキもリクも生まれたときから親に連れられて、お導きノ会に通ってきているので、霊の話題に何の違和感も感じないらしいのだ。学校で聞いてきた同級生との怪談話も、食卓で真面目に語り合われるのを見ていると、うっかり冗談や比喩でも霊の話などできないと思ったものだ。

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[ 2011/07/25 00:24 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (12)

そのテツジはといえば、穏やかそうで優しいところが取り柄だが、一緒に暮らしているとその穏やかさも優しさも別の形に見えてくる。家庭の中でいざこざが起きないよう気を配っているだけだとわかってきたのだ。

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[ 2011/07/27 13:10 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (13)

マナミが作ったホームページでは、トップページの下のほうにタンポポのイラストが描かれている。そのタンポポに止まっている黄色い小さな蝶をクリックすると、パスワードを書き込むページへとリンクされ、パスワードを入れれば、隠れ場所のページにたどり着く仕組みになっていた。

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[ 2011/07/29 14:30 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (14)

マナミは隠れ場所での愚痴話を、日記形式ではなく、書いた内容がわかりやすいようにタイトルをつけてエピソード形式にして書いていた。感情が昂ぶったまま書き込んだときより、日を置いて読み直すと自分で書いておきながら滑稽さに笑えるのであった。これが自己満足ながら彼女の密かな励みになっているといえる。

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[ 2011/08/01 01:01 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (15)

階段を上がってくる音が聞こえた。テツジが風呂に入り終えたのだろう。そのまま彼はマナミのいる部屋を素通りして、寝室に向って行った。夫婦だけの会話はもうほとんどなくなってしまった。喧嘩をしているわけでもなく、気まずい関係でもないというのに、互いの存在を確認するだけの日常だ。

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[ 2011/08/03 00:05 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (16)

わりあい敷地の広い屋敷に住みながら、シズカは意外に出費を渋る性質なのだ。娘のサヨコやカナコはブランド買いが好きだが、シズカにはそういった好みはない。見栄を張る意味で高い買い物をすることもあるにはあるが、ブランドより数量が欲しいらしく、姑の部屋の箪笥という箪笥、さらに衣装ケースにもびっしりと服が収納されている。

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[ 2011/08/06 00:16 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (17)

壁に架かった時計を見ると、11時をとっくに回っている。そろそろ風呂に入りに行かなくてはと思いつつ、階下で派手な足音が行ったり来たりしているのを聞くと、姑はまだ起きているらしいとわかり、シズカとまた顔を合わせるのが億劫で、マナミはもうしばらくパソコンの前から離れずにいようと思った。

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[ 2011/08/10 00:09 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (18)

ふと、階下から声が聞こえた気がしてマナミは耳を済ませた。シズカだろうか。それとも、幻聴? いや、確かにシズカが嫁の名を呼んでいるようだ。

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[ 2011/08/14 01:20 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (19)

薄暗いというのでもないやわらかな明度の照明に照らされたバーのカウンターで、マナミとトウコは久しぶりの再会の時を過ごしていた。目の前にはシェイカーを振ってグラスに注いでいくバーテンダーがいる。まだほんの宵の口ということもあってか、奥行きのあるカウンター席と、窓際の二つの小さなテーブル席だけの店内には客はまばらだ。オフィス街のビルの中にある小さな空間、『Da Mayama』は、彼女たち二人が落ち合う馴染みのバーだった。

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[ 2011/08/17 00:34 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (20)

バー『Da Mayama』の店内にはトウコとマナミの他に、一番奥にカップルらしき男女が一組と、一人でカクテルを楽しんでいる男性、商談でもしているのであろうビジネスマン二人がいて、それぞれ適当な間隔を置いて座している。カウンターをはさんでちょうどトウコと向かい合わせにいるのが、店の名前にもなっているマスターのマヤマで、離れたところにもう一人若いバーテンダーがいた。

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[ 2011/08/20 10:09 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (21)

トウコの突然の質問に、マナミは怯んだ。「もちろんよ。そんなの決まってるじゃないの。」と答えるつもりだった。

が、開きかけた唇から漏れ出た言葉は、

「わからない。」

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[ 2011/08/23 13:18 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (22)

空を雲が覆い、時折、小雨がぱらつくある日のこと、タカノ家の前に大きな花柄の傘を差した女が佇んでいた。傘を持つ反対の手には、住所と地図が手書きされているメモがあり、女の視線はメモとタカノの表札とを交互に動いた。次に周辺の様子を窺い、人通りがないのを確かめると、屋敷の中を探るかのようにタカノ家の周りを歩き出した。

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[ 2011/09/06 08:20 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (23)

シズカは立ち上がると冷蔵庫から羊羹を出して切り始めた。この家で甘い物はきらしたことがない。冷蔵庫なり戸棚なり、どこかに必ず甘い物が用意されている。来客用のためと嫁には言い訳しているが、シズカ自身の楽しみであることは間違いない。

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[ 2011/09/10 10:11 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (24)

タカノ家の周辺を誰かが徘徊していたことや、屋敷の中で姑と小姑の間に何かが起きたことも知らず、マナミはクッキング教室を開いている離れで、生徒たちと調理の後のお茶会でいつものように歓談に耽っていた。

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[ 2011/09/14 08:17 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (25)

クッキング教室を終えて、離れから母屋に戻ったマナミは、急いで洗濯物を取り込み、それから夕飯ごしらえのため台所に向った。流しには使われた食器が積み重ねて置かれたままだ。湯呑み茶碗には口紅がべっとりとついている。義姉が来ていたのだ。

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[ 2011/09/18 07:15 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (26)

落ち着いた温もりのある照明の中で、トウコはドライマティーニを飲んでいた。ここは彼女のいきつけのバー、Da Mayamaだ。親友のマナミと会うときもここだが、今夜はもう夜もかなり更けた閉店間際で、他に客はスーツ姿の男が一人残っているだけである。

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[ 2011/09/22 12:07 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (27)

トウコの放り投げた言葉に対しても、バーテンダーのマヤマは風がそよと吹いたほどにも何も反応を浮かべなかった。相変わらず、穏やかな表情で彼女が話すまま話させてやろうという姿勢らしい。

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[ 2011/09/26 10:42 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (28)

その日は朝早くから、タカノ家の家中が騒がしかった。シズカやカナコがバタバタと走り回っていたし、扉の開け閉めの音もあちこちから聞こえてくる。マナミは夫のテツジの身の回りの世話で忙しかった。

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[ 2011/10/01 08:45 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (29)

家族の見送りをして一人タカノ家に残ったマナミは、俄かに活気づいて日常の家事に取り掛かった。今日はクッキング教室の日なので、生徒たちが来るまでに準備をしておかなくてはいけないこともある。

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[ 2011/10/06 09:52 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)

もの憂げな三日月 (30)

レナの家は大通り沿いにあるマンションの一室で、マナミの教室からそう遠くはなかった。インターホンを鳴らすと、思いもかけずマナミも訪ねてくれたことをレナは喜んで、すぐに中に招き入れて室内に案内した。

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[ 2011/10/11 10:15 ] 『もの憂げな三日月』 | TB(-) | CM(-)